トーキョー・メンタルクリニック④

MEDICAL

Wikipediaより

https://ja.wikipedia.org/wiki/アスペルガー症候群

メンタルにも流行がある

奇妙な感覚かもしれませんが、メンタルの病気にも流行があります。

古くは19世紀のヒステリー、20年前くらいは境界型人格障害、7.8年前は新型うつ病、今はなんと言っても発達障害です。発達障害は行動とコミュニケーションの障害で、生まれつきの脳機能の異常です。ですので、遅くても小学生の時からその傾向が現れます。

大きく、アスペルガー症候群、注意欠如多動性障害(ADHD)、学習障害に分けられ、オーバーラップして持っている人もいます。発生率は10%弱で、男性のほうが多いです。ただ、難しい言い方をするとスペクトラムで考えなくてはいけない、要するに「アスペっぽい、ADHDっぽい」人は結構いて、問題なく人生を送っていたりするので、「あなたは発達障害です」と、どこで区切るかは難しい問題です。

空気が読めない、他人の気持ちを想像することが苦手、思ったことを何でも口に出す、好きなことには熱中するが興味が持てないことは出来ない、先の見通しが立てられない、などは発達障害全体に共通しているように思います。

最近もっとも話題になっているアスペルガー症候群の傾向は、こだわりが強い、決まった手順を好み予定外のことが起きるとパニックになる、表情に乏しい、自分の考えをうまく説明できない、暗黙のルールが理解できない、自分が納得しないことはできない、記憶力がいい、声の大きさや人との距離感がつかめない、感覚過敏すぎるか反対に鈍感すぎる、などです。本人がアスペルガーかもしれないと疑って受診してくる人もいますが、配偶者や子供がアスペルガーで苦しんで受診してくる人もいます。

嫌なことが時間によって風化しない

例を挙げますと、会社の同僚が自殺したと笑顔で報告してきた方がいます。場にふさわしい表情を作ることができないのです。

店長に罵倒されたと激昂し涙を浮かべながらとうとうと訴えていましたが、よくよく聞くと、それは10年も前のことでした。視覚記憶に優れていて、十年も前の罵倒された場面をありありと、まるで昨日のことのように思い出すのです。嫌な事が時間によって風化しません。

会社にいけなくなったけれど、家族にも主治医にも言えずに、給与明細の偽造をしていた方がいました。遅かれ早かれ会社から家族に連絡が入りますよね。先の見通しが立てられず、場当たり的な行動をとります。

仕事中の移動のために昼食の時間がとれずに、電車でお弁当を食べたと誇らしげに報告してきた方。「時間がないなら電車で食べると言う簡単なことを思いつかないなんで、同僚はバカだ」と言うのです。行楽地に向かう電車のボックス席ではなく、平日の山手線での出来事です。社会の暗黙のルールはわかりません。

好きな人が出来たからと、ある日突然、有無をいわさずに離婚に踏み切ったアスペルガー夫。表情に乏しく、空気をかもし出すことがないので、妻にとっては晴天の霹靂です。“なぜ、どうして”と自分の気持ちや考えを説明することも苦手で話し合いになりません。
「好きな人ができた」→「その人と恋愛関係になりたい」→「でも自分は結婚しているので不倫になる」→「不倫はいけないこと」→「離婚」そこに妻の気持ちや、周りへの影響を想像する力は働いていません。

彼らに悪気はないのです。彼らなりに一生懸命に生きています。正直でうそをつかないし、気を利かせることはできませんが、言われたことは正確に行い、興味を持てば集中力も健常人より長く続きます。発想や視点がユニークで、他の人ではできないようなことを成し遂げる方も居ます。

一般的にアスペルガー症候群の方に向いているといわれる仕事は、コミュニケーションを必要とせずに一人コツコツとできて、自分のペースを乱されないものが良いです。職人や研究者、農業などが向いているように思います。

発達障害の人は周りに合わせえて自分を変えるということが努力をしてもできません。自分にしかできないスキルを身につけ、自分に合った環境に身をおき、人と違っても良いと自分を受け入れ、しかし、他の人の意見にも耳を貸すようにすると、少し生きやすくなるのかもしれません。【了】(2016年6月18日「ムーラン」掲載)

鈴木裕子(すずき・ゆうこ)
平成10年医師免許取得。その後、大学病院、市中病院、精神科専門病院などで研鑽を積み、触法精神障害者からストレス性疾患患者まで、幅広い層への治療歴を持つ。専門はうつ病の精神療法。興味の対象は女性精神医学、社会精神医学、家族病理、医療格差など。数年前より都内某所でメンタルクリニックを開業し、日々診療にあたっている。精神保健指定医、日本医師会認定産業医。

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