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【書評】『コロナ下の軌跡 自衛隊中央病院衝撃の記録』石高健次著

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本書の著書である石高健次氏は北朝鮮による日本人拉致事件の横田めぐみさんの事件をテレビで最初に報道した元朝日放送の報道プロデューサーであり、評者とは北朝鮮問題等の取材等で知りあいである。

本書では知られざる自衛隊のコロナウイルス対応の様子が描かれており、ダイヤモンドプリンセス号での乗船客への医療支援と自衛隊中央病院でのコロナウイルス感染者治療の様子が克明に記載されている。

今まで自衛隊は創設以来、様々な国難に対応してきた。近年では阪神大震災、オウム真理教による一連のサリン事件そして東日本大震災での福島第一原発事故対応が有名であり、それらの活動は多くの国民から高い称賛を受けた。しかし、今回のコロナウイルス対応は今までとは桁外れの見えない敵との戦いである。

未知のウィルスとの戦い

過去に対応例もない未知のウイルスとの戦いであった。

自衛隊のコロナウイルス対策のきっかけはダイヤモンドプリンセス号の2020年2月の横浜入港からである。当時、同じく医療支援をしていた厚労省、地方自治体、DMAT(災害派遣医師チーム)等と協力して医療支援活動や乗船客への生活支援に従事し、3700人近い乗船客に対する行き届いた医療生活支援を行った。自衛隊は以前から、被災地における被災支援で高い評価を受けている。

現在、評者は地上波のニュースやワイドナショーを見る事はなく、もっぱらCNN等の海外ニュースばかり視聴しているため、当時、CNN等ではダイヤモンドプリンセス号での日本側の対応を極めて厳しく批判している報道ばかり目にしていた。そのため、当時の支援活動の事実を知り大変驚いた。

最後に派遣された隊員達が救援派遣解除後の二週間の隔離と再度のPCR検査をしないといけないのも他の派遣業務と違い特筆するべき事柄だと思う。

自衛隊中央病院での活動については評者が本書の自衛隊中央病院での記述で『沈黙の肺炎』と『唾液のPCR』と言う言葉に興味を覚えた。

唾液のPCR

評者も1月上旬にコロナウイルスに感染した際に自宅近くのクリニックの発熱外来でPCR検査を受けたが、その際の検査方法が唾液によるPCR検査だった。検査直後に著者の石高氏と電話で話す機会があり、唾液検査は自衛隊中央病院が始まりだと聞いた。本書を読んでその経緯が分かり氷解した。

次に『沈黙の肺炎』との言葉だが評者も感染発症して7日目ぐらいから急に肺機能の目安である血中酸素濃度が標準より下がり始めて、一時期は93まで低下した。(本書によると血中酸素濃度93は重症に分類されるそうだ)当時、咳は若干有ったが体温は平熱であり、自覚症状がない肺機能の低下を如実に感じた。私自身、本書を読む中で感染回復者として記述に思い当たる点が多数あった。

さらに特筆したいのは感染者への初の全身性ステロイド剤の投与である。当時、WHOが全身性ステロイド剤投与に否定的な見解を公表しており、まさにこの章の名称が『海図なき船出』にあてまる冒険的な挑戦であったが、血液のPCR検査から、発症して一週間目の投与のタイミングが非常に高い効果を出すのを発見した。

進まないワクチン接種

本書の記述から言葉を借りるならば『「医の未踏の原野」に一本の道をつけた瞬間だった』である。世界中が具体的な治療薬を模索している中で緊急的治療方法だかこの発見は大きいと思う。現在のコロナウイルスの治療でこの全身性ステロイド剤投与が一般的に行われており、多くの命が救われているのも事実だと思う。

最近の報道で、政府はなかなか進まないワクチン接種に東京と大阪で大規模な会場設置と自衛隊投入を決定したようである。ダイヤモンドプリンセス号支援、自衛隊中央病院でのコロナウイルス治療の先駆者、そして大規模ワクチン接種支援と今度も自衛隊のコロナウイルスとの戦いは続くと思われる。これは後々、オウム真理教事件、東日本大震災の福島第一原発事故支援と同じように語り継がれると思う。(了)

川添 友幸

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川添友幸(かわぞえ・ともゆき)  1978年神奈川県生れ。明星大学大学院博士課程前期修了(教育政策) 教育産業に就職し2013年に退職して独立して教育コンサ...

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