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【書評】『コロナ危機の政治 安倍政権vs知事』 竹中治堅著 コロナで露わになった日本政治の欠陥〜

COLUMN

 

本書は一連のコロナ禍についての2020年2月末から同年8月末までの半年間の政府、地方自治体、関係団体等の政治過程プロセスをまとめたものである。

初期対応の政治過程プロセスを検証すべき

感想としては時系列が非常に良くまとまっていると思った。コロナ禍については未だに終息の見通しはおろか2021年に入り爆発的な感染者数を記録しており、再び首都圏を中心に緊急事態宣言が発令されている。

このように収束していない歴史的事実の検証は、まだ早いのではないかと言う指摘もあるが、現在の段階でも、コロナ禍の初期対応の政治過程プロセスをしっかりと検証する必要があると思う。ちなみに評者も先月、コロナウイルスに感染して10日間自宅療養して、現在は回復している。コロナ禍の当事者として本書を書評していきたいと思う。

本書の一番重要なキーワードはキャパシティと言う言葉である。これは保健所キャパシティや検査キャパシティさらに医療キャパシシティと言う用語で使われている。このキャパシティが国や地方自治体の政策決定に大きな影響を与えている。

昨年4〜5月の緊急事態宣言発令中は、PCR検査の検査範囲を拡大してしまうと、感染者探知の拡大から医療崩壊が起きるという懸念から、PCR検査をなかなか受けることが出来ず、一部識者やメデイアから激しい批判が出た。その後、医療キャパシティが改善されたようで積極的なPCR検査が行われるようになった。ちなみに先月、評者がコロナに感染した際も、微熱であったが自宅近くの発熱外来クリニックで、「会食で同席した知人がコロナ感染が判明した」という説明したところ、意外と簡単に国負担のPCR検査を受ける事が出来た。

政府内の足並みの乱れ

次にコロナ対策の法律的な根拠は感染症対策法や新型インフルエンザ対策措置法である。コロナウイルス対策のファクターは最終的な政治的な判断は総理大臣であるが、厚生労働省やコロナウイルス対策担当大臣さらに専門家会議もあり、本書の中でも政府内の足並みの乱れが随所で指摘されている。

さらに地方自治体も重要な役割をしているが、自治体間でも財政状況等で格差があり、各自治体の施策モデルにも大きな違いが出ていた。他には医療系や観光系の族議員等の議会関係者や日本医師会等の圧力団体やマスメディアの政治過程プロセスに影響を与えていることが指摘されている。

コロナ対策で、国と地方自治体の間で地方自治体が関与する事が出来なかったのは外国人の入国緩和等の出入国管理権限と『Go To キャンペーン』のみである。この二つが感染拡大の原因であるという。

国と地方事態の関係はフラットなのか

著者は、安倍晋三首相が『首相支配力』を強い指導力を発揮し、国として様々な政策実行すると、地方自治体は『首相支配力』の版図外で強い指導力を発揮する事が出来ないと言う事実を批判する。

現行の日本の法制度下では政権が全ての政策分野に対して法的な影響力をもっているが、感染症という特別分野では、国だけでなく、保健所を設置している地方自治体が政策を立案して実施する権限を持つとされており、加藤厚生労働大臣(当時)も国と地方自治体の関係は『フラットの関係』であると発言しているのも、それを裏付けている。

この『フラットの関係』の齟齬やお互いの政治的な思惑が結果として国と知事との対立に、つながりコロナ禍の対策の遅れにに大きな影響を与えた。

国と地方公共団体の権限関係を精査せよ

本書の結びでは、一部地域で起きる爆発的な感染症に対して、現行の法制度では対策が限界であり、現在の国と地方公共団体の権限関係を精査するべきだと主張するが、評者も全く賛成である。この権限関係の精査は、感染症対策以外の沖縄の普天間基地問題等にも以前から指摘されていた。

まだコロナ禍は収束しておらず、ようやく医療関係者へのワクチン配布が始まったが、収束する見通しは立たない。そんな中、再び感染拡大した際に、また国と地方自治体の『フラットの関係』の齟齬は絶対に避けなくてはいけない。

数年後かもしれないが、コロナ禍が収束した際には、今回の第三波を含めた全ての政治過程プロセスを検証して欲しい。【了】

川添 友幸

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川添友幸(かわぞえ・ともゆき)  1978年神奈川県生れ。明星大学大学院博士課程前期修了(教育政策) 教育産業に就職し2013年に退職して独立して教育コンサ...

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