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【書評】『RAGE 怒り』ボブ・ウッドワード著  〝死者20万人〟の責任 

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トランプ大統領とコロナウィルス

本書の著者のボブ・ウッドワード氏はニクソン大統領を辞任に追い込んだウォーターゲート事件をスクープした伝説的なジャーナリストである。ウッドワード氏はその後もクリントン大統領、ブッシュ大統領、オバマ大統領、そしてトランプ大統領ら歴代大統領に直接インタビュー取材している。本書の特色は直接、トランプ大統領に就任中にインタビューして書いたもので、そうした著作は初めてだそうである。そこで、筆者は、本書のトランプ大統領へのインタビューで中における、コロナ問題との関連について論じていきたいと思う。

英語版が9月15日に出版されたが様々な点で出版直後から物議を醸し出した。ウッドワード氏は計17回のインタビューしており、16回はインタビューはトランプ大統領の同意を得て録音している。大きな問題になったのは6回目の2月7日と8回目の3月19日のインタビューである。6回目の2月のインタビューではトランプ大統領は「これは致死的なウイルスだ」であり、致死率も高いの認識していたようである。しかし、その後もトランプ大統領は公の場で新型コロナウイルスに対して「いずれ消える」「全てうまくいく」などと軽視する主張していた。その点について8回目の3月のインタビューでウットランプ大統領に問い出すと「常に控えめに扱いたいと思っていた」「今でも控えめに扱いたいと思う。パニックを引き起こしたくないからだ」と発言し、世論操作や事実の隠蔽を認める発言した。この事実をウッドワード氏が9月の著作の出版直後に公表した際、トランプ大統領と同様にウッドワード氏も世論から激しい批判を受けた。ウッドワード氏への批判は3月のインタビュー直後に事実を公表してトランプ大統領の新型コロナウイルス対策の方針転換を促すべきだったいう批判である。

6ヶ月間で20万人の死者数

この批判について、ウッドワード氏はメディアの取材に対しては、情報をすぐに公表しなかったのは、トランプの発言を聞いた時点では、発言の内容が正確かどうか判断できなかったのが理由であると説明している。その後、取材でホワイトハウス高官がトランプ大統領に新型コロナウイルスの脅威について説明した時期が6回目(2月7日)のインタビューより前だと確認する事ができたのは、新型コロナウイルスの脅威が広く認識されていた5月中であり、ウッドワード氏は「米国民が知らないことで、知らせるべきことがあると思えば、どの時点であれ、その時点で知らせる」と述べている。

しかし、3月18日直後に事実を公表すると、その後のトランプ大統領へのインタビューのみならず、自著が出版するのが出来なくなる危険から公表しなかった指摘もある。筆者はどちらが正しいかは判断ができないが、ジャーナリストズム的観点や倫理観点からも非常に難しい判断である。

ただ3月から9月の間にアメリカ国内で新型コロナウイルスでの死者数は約20万人である。ウッドワード氏が3月のインタビュー内容を直後に公表したら、この約20万人の犠牲者を回避する事は出来たは難しいと思うが、一定数の犠牲者数を減らす事は可能だったと思う。

さらに筆者が気になったのはトランプ大統領らホワイトハウスとホワイトハウス・コロナウイルスタスクフォースのファウチ博士ら感染症専門家達との対立である。日本でも新型コロナウイルス対策をめぐり総理大臣官邸と新型コロナウイルス感染症対策分科会の対立も話題になった。専門家の言う意見を聞けば良いと言うと意見もあるが、そんな単純な問題ではないと思う。

「専門家」に責任はとれるのか?

仮に専門家の言う事をそのまま実行して、事態が悪い方向になった場合は専門家達がしっかりとした責任は取るのだろうか。逆に政治家が政治的な判断だけで事態を判断するのも問題である。さらにどちらの判断も出来ずズルズルと判断を先送りして、事態が悪化するのが一番良くない。

ではどうすれば良いのか。

私は政治と言うものは結果責任だと思う。専門家の意見も聞きながら最終的には政治家が政治的責任を持って判断するべきだ。ホワイトハウスとホワイトハウス・コロナウイルスタスクフォース の対立の結果として対策が遅れて、感染拡大を招いたと思われる。

12月15日に選挙人投票により、正式にバイデン氏の当選が決まり、トランプ大統領の落選が決まった。トランプ政権への評価は百家争鳴であり、様々な評価があるが、本書がその評価の助けになればと思う。【了】

川添 友幸

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川添友幸(かわぞえ・ともゆき)  1978年神奈川県生れ。明星大学大学院博士課程前期修了(教育政策) 教育産業に就職し2013年に退職して独立して教育コンサ...

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