【江川紹子×大石静 生涯現役力】②〜仕事をしないと生きられない

SERIALIZATION

暇だと不安で鬱っぽく

編集Y この対談が行われた直後に江川さんは風邪をこじらせて肺炎に罹ったんですよね。

江川 そう、咳のしすぎで肋骨を痛めて、胸部にバンド巻いてた。最近、体力の衰えを実感するなあ・・。

編集Y 実は私も、江川さんの後を追うように風邪→肺炎になったんですよ。社会人になって初めて半月近く「寝たきり」を経験して、真剣に将来に不安を覚えました。私、このまま働けなくなったらどうなっちゃうのかな、なんて・・。

大石 若いのに何言ってんの。

私も睡眠は1日の4時間くらいかな。働かないと生きられないし、暇だと不安で鬱っぽくなるし。

江川 暇だと「私って必要とされてないのかな」とか普段考えないようなことが浮かんじゃったりしてね。

編集Y えーっ、おふたりほどのキャリアがあってもそうなんですか(驚)。

旧正月では、2月19日が「元旦」なので、さらなるキャリアアップを目指して精進します。

ところで、今年のテーマはなんでしょう?

江川 戦後70周年ということで、やっぱり歴史認識の問題がどうなるのかは気になるな。70年かけて、日本が、国際的な地位やイメージも含めて築いてきたものが崩れる可能性が否定できなくなってきたでしょう。

大石 日本の国際的なイメージってそんなにいいものなのんですか?

江川 色んなアンケート見ると、結構いいですよ。日韓・日中に絞ると、お互いのイメージが悪くなってるけど、他の多くの国々では好印象を持ってもらえてる。

大石 確かに、トルコとかタイなど、親日的な国が多いし、メイド・イン・ジャパンという高品質の製品があって、清潔で礼儀正しい人たちという感じなんでしょうか。それはヨーロッパもそんな感じなの?

江川 唯一、従軍慰安婦の強制連行があったオランダは反日感情が残っていると言われ、昭和天皇の訪問時には卵が車に投げつけられたこともありました。でも、償い金と総理の謝罪の手紙を、オランダは受け入れて和解に応じている。

今はオランダ王室が、日本の皇太子一家を招いて皇太子妃の療養の場を提供するなど、最近は親密な関係です。もっとも、「河野談話」見直しが取りざたされると、クギを刺してくるなど、何かあると「過去は忘れていないぞ」というサインを送ってきますが。

大石 過去の戦争の問題は悪かったけれど、そうした過去とは違う日本というイメージを作ってきたということ?

江川 そう。だけど、安倍総理がの「目標」が村山談話を置き去りにし、「昔の日本はそんなに悪くなかった」という風潮が広がって、「日本は過去と決別していない」というイメージが対外的に広がるようになっちゃったら・・

大石 なっちゃう気がしますね。今の感じだと。

江川 じゃあ、今までの多くの人たちの努力は何だったんだという話になりますよね。

今の状況見ていると、安倍さんの復古的な主義的な部分に共感する人が増えているようです。前回の衆議院選挙でも、最終日に秋葉原で安倍総理がやった演説を見ていると、安倍さんが出て来ると「ワーっ」と盛り上がり、「憲法を変えます」と言うとまた「ワーっ」となる。

自民党の改憲草案の中身を知っているのかなと心配になりますね。

若者の窮屈したエネルギーの向かう先

編集Y 江川さんが撮影された写真を拝見すると、日の丸を持った若者が大勢いますが、どこまで安倍さんの憲法史観に賛成なのか疑問です。

大石 恐らく、なんにも考えてはいないのではないかしら? わたし達が若い頃は、若者の鬱屈したエネルギーは“レフト”の気分にはがれていた。今は“ライト”に流れている。
それも一種の流行みたいな気分でしょ。

江川 そうそう、昔はニューレフトの時代だったから。

大石 反代々木に気分的に流れていたのよ、あなた(編集Y)は年齢的に知らないかもしれないけど、左翼にも、“代々木”と“反代々木”というのがあって、私自身もなんだかよくわかってなかったんだけど、“反代々木”の方がかっこいいな~とか思ってた。
私は実家がお茶の水だったので、インターナショナルを謳って、家の前を通過していく東大とか日大のデモ隊を見て、「この人たち格好いいな」と思ったりしたのと、今の安倍さんに対する思いって似てるんじゃないかしら?

江川 結局ね、教育だと思うんですよ。現代史もそうだし、そもそも憲法とは何かという憲法教育も出来ていないから、右に左に引っ張られやすいんじゃないかな。

大石 え~! 江川さんは、私よりお若いけど、私の時代は小学校ですごくやったわよ。日本国憲法の三原則、「戦争放棄」「国民主権」「基本的人権の尊重」なんて、イヤってほど、教わった覚えがある!

江川 憲法で決められた行政の仕組みについてはしっかり教えるんだけど、憲法は本来、国民ではなく権力の側を縛るものだという立憲主義や、人が個として尊重される基本的人権の問題をほとんどやらないんだよね。

大石 確かに 「基本的人権の尊重」って丸暗記しても、わからないですけどね。でも教育は重いです。私も60年生きたけど、50年前に受けた教育がふっと出てきたりするもの。

編集Y 物事やニュースの判断基準も結局は受けた教育で決まります。次回は、おふたりに、教育の問題をもう少し突っ込んで聞いてみたいと思います。【続】(2016年2月10日「ムーラン」掲載)

江川紹子(えがわ・しょうこ)
1958年、東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒。神奈川新聞社で警察・裁判取材や連載企画などを担当した後、29歳でフリーランス・ライターに。1989年から本格的にオウム真理教についての取材を開始。「オウム真理教追跡2200日」(文藝春秋)等、著書多数。菊池寛賞受賞。オペラ愛好家としても知られる。個人blogに「江川紹子のあれやこれや」

大石静(おおいし・しずか)
1951年、東京都出身。日本女子大学文学部国文学科卒。1986年に脚本家としてデビューして以来、数多くの作品を手がけ続ける。NHK連続テレビ小説「ふたりっ子」で第15回向田邦子賞/第5回橋田賞をダブル受賞。「セカンドバージン」(NHK)で東京ドラマアウァード2011・脚本賞。
「四つの嘘」(幻冬社)など著書多数。他に、作詞も手がける。公式blogに静の海(http://blog.5012.jp/ohishi/profile.html)

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ウェブマガジン「Colette」は、ベルエポック期から活躍し、二度の戦争を乗り越え、最期まで精力的に執筆活動を行い、また華やかな私生活でも知られたフランスき...

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