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【書評 川添友幸】コロナとの死闘 西村康稔著/幻冬舎

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低評価と批判文に埋め尽くされて・・

本書は2020年3月から2021年10月までコロナ対策大臣としてコロナパンデミック対策の陣頭指揮を取った西村康稔衆議院議員の手記である。

評者がこの本に興味を覚えたのは出版直前からSNS上で規制緩和派や自粛反対派から批判や抗議の声が出ていたからだ。さらに本書のAmazon.co.jpのページのレビューも低評価と批判文に埋め尽くされており、夕刊紙でも、低評価については記事として取り上げていた。
別の本の書評でもコロナ対応における政府、自治体、医療機関、メディアの検証が必要だと感じていたが、本書を読んで、その検証になるのではないかと、ある意味、期待していた。残念ながら期待は裏切れる結果になったが。

まず最初に、コロナパンデミックはまだ消息しておらず、歴史的な検証判断が出来る時期でないと言う意見もある中で、パンデミックが起きて2年半ほどしか経過していないのに、一定の政策を評価をするのは中間的な判断としては妥当でないかと思われる。じっさい、本書を読んでいていくつか疑問を感じた。まず責任転嫁、自己弁護と言わざる得ない点である。未曽有のパンデミックのような緊急事態であり、以前、別の書評でも触れたがコロナパンデミック対策は沖縄の米軍基地問題等のような国主導の政策と違い地方自治体とのフラットの関係の対策が必要である。
首長達の中でポピュリズム的な視点の言動があり、それを無批判で取り上げるメディアにも問題はあるが、2020年4月の緊急事態宣言発令は小池東京知事のロックダウン発言が原因で西村氏自身が、「緊急事態宣言発令を安倍総理に提言した」と本書で記述しており、その後のワクチンや治療薬の認可などのパンデミック対策が進まないと言い訳しているが、自己弁護を首長や法制度に押し付ける記述が目立ち大きな疑問を持たざる得ない。

安易な専門家依存

次に安易な専門家依存にも問題がある。
これは東日本大地震の時の福島第一原発事故の際にも指摘があったが、専門家の発言を無批判で受け入れている。政府分科会で一番信頼していたのは八割おじさんと言われた西浦博京都大学教授であるという。

西浦博教授について、「頼れるのは西浦先生だけでしたから、彼の貢献は非常に大きなものがあったと思います」と記載している。そのうえで42万人死ぬ発言や今の感染者数は氷山の一角発言など、強い表現については、「尾身先生が、時々西浦先生をたしなめる場面もあったと聞いています」と書いている。出来レース感を感じ、このような出来レースをメディアが無批判で報道して国民の不安を煽った点は否定する事はできない。政治家は専門家の意見をしっかり聞くべきであるが、ー政治的な判断は政治責任を持った政治家が行うべきであり、責任転嫁ではないだろうか。

さらに、国民に対する緊急事態宣言やまん延防止法での経済活動や移動の自由に対する自粛要請にも疑問を感じる。特に飲食店に対しては時短や酒類提供禁止のようなら強制的な対応が果たして妥当であったのであろうか。
緊急事態宣言やまん延防止法の効果についてはまだ結論は出ていないが、海外ではロックダウン等は意味がなかったと言う指摘がある。日本ではさらなる検証が必要だろう。評者は国民の権利や人権を侵害するなら相当な理由や相当な補償が必要だと思うが、この点については残念ながら本書で触れている箇所は見受けられない。未曾有のコロナパンデミックなのだから、ともかく我慢しろと言う論理はおかしいと思う。

幽霊病床問題に言及がない

指摘された医療機関が新型コロナウイルス感染症の患者向けに確保した病床のうち、コロナ病床として申告しながら、実際は患者を受け入れていない「幽霊病床」問題に言及がないこともおかしい。この幽霊病床には補助金が出ており、補助金の原資は税金であり、大きな問題だと思う。低収入の現場の医療関係者への言及もほとんどない。

本書の後半で、西村元大臣はテレワーク推進や企業の仕事内容に合わせて、人材を当てはめていく採用方法のジョブ型雇用の推進を提言しており、本書には今までの経済や社会体制を変化させようと提言しているが、これは国家による福祉・公共サービスの縮小(小さな政府、民営化)と、大幅な規制緩和、市場原理主義の重 視を特徴とする新自由主義的な経済観である。
確かにそのような新自由主義的な経済体制は、成功者は良いが失敗者はどうなるのであるのか疑問が拭えない。新自由主義的な経済体制に移行するならセーフティーネット体制の整備は必須だろう。

評者は政治は結果が全てだと思う。コロナパンデミックに対する政策結果の評価は現在の私達が行うのか、あるいは後世の史家がするのか判断が分かれるが、本書を読んで感じたのは西村元大臣の責任転嫁、自己弁護、国民の権利侵害に対する説明責任の不足と安易な新自由主義提唱である。
コロナパンデミックで大半の日本人(特に若い世代)の経済的、社会的活動の損失は計り知れない。政府として今後のウイズコロナ政策をしっかりと明らかにして欲しいと思う。【了】

川添 友幸

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川添友幸(かわぞえ・ともゆき)  1978年神奈川県生れ。明星大学大学院博士課程前期修了(教育政策) 教育産業に就職し2013年に退職して独立して教育コンサ...

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